「宮台教授の就活原論」

2018年 5月8-13日 宮台真司

社会学者である宮台氏による就活本。就職活動に直面する学生向けに書かれている。

 

◼️適応力が求められている

 日本の新卒一括採用は、終身雇用を前提とし、企業が学生を一からじっくり育てるシステムであった。それゆえに、学生を採用する基準は、即戦力として使える換金可能なスキルではなく、教養・人柄といったポテンシャルであった。

 現在でも、ポテンシャル採用である点は変わらないものの、その背景は変わってきている。グローバル化の進展により、経済界は流動性を増し、企業は変化に対応可能な組織づくりを求められているのだ。変化に対応可能な組織であるためには、適応力の高い人を集める必要がある。

 

◼️はびこる自己実現主義

 就活では、仕事で自己実現を目指すことが当然のことであるかのように認識されている。しかし、仕事での自己実現をあまりにも重視しすぎるが故の弊害がある。

 そもそも、仕事で自己実現というのは最近の考え方だ。

  第一次世界大戦後の先進国は、大量生産の時代にあった。大量生産を支える労働者たちは、全体の見えない過酷な仕事に従事していたため、労働者保護のため、「フォード主義」という労使協調路線がとられる。仕事はおもんないけど、定期的に昇給するから我慢してね、とういことだ。この時代に、仕事で自己実現などどのたまう労働者はいなかっただろう。

  しかし、第二次大戦後、低成長経済に突入した先進国では、定期昇給はみこめない。労使の視線は、賃金ではなく生活の質向上にむけられる。その結果、仕事=人生であるかのような考え方が広まってしまった。

 仕事自己実現の考え方も、終身雇用制度が機能していた時代は、人生にポジションな意味を与えていたかもしれない。だが、現代ほどに経済の流動性が高まっている場合、仕事での自己実現だけを目指す、硬直的な姿勢は危険だ。

  会社が自己実現・承認の場として機能しなくなるなりつつあるため、会社以外の場で、自分のベースとなる共同体を持つ必要がある。

 

◼️自己実現よりもホームベースをつくれ

 人間には、感情な基盤となる共同体が必要だ。共同体とは、家族・親族・地域の人々などである。しかし、経済成長を追い求め続けた日本では、あらゆるものを市場から調達せよという圧力から、共同体は空洞化の一途をたどった。ついには、会社が共同体としての機能を提供することもできなくなった。

  自己啓発本が売れるのも、人々が感情的安定の場を失ったからではないか。自己啓発本に感情的癒しを求めてしまうのでは、根本的な安定を得ることはできない。

 

まとめ

・市場、国家に依存しきった日本では、もはや社会が機能不全に陥っている

・そんな社会で、幸せに生きるためには、依存をやめ、自立するしかない

・社会、他人の抱える問題を自分ごととして捉える。立派な大人になろう