「事例に学ぶ貸出判断の勘所」

2018年6月10-23日  吉田重雄

 

銀行で働き始めて一年ちょっと経ちました。近頃思うのは、営業に置ける貸出業務の比重低下です。担当先企業について考えるとき、どうやって貸出をしようか、既存の貸出の保全は大丈夫なのか、といったことに知恵を絞る比率は低いです。もっぱら、関係会社をどうやって紹介しようか、リテール担当員をどうやって連れて行こか、と言ったことにばかり気を取られています。

たしかに、銀行の外部環境を考えると、貸金収益は減っており。貸出にばかり頼っていられません。グループ全体で収益を上げるべく、営業スタイルを変える必要があります。

しかし、企業側からすれば、銀行の担当者はあくまで銀行の担当者であり、フィナンシャルグループの窓口として認識してはいないでしょう。企業が求めるのは、適切な融資対応です。

にも関わらず、銀行は若手に十分な融資知識を習得させる暇もなく、多種多様な収益項目を課しています。これでは、いざ、融資が必要となったときに、迅速適切な対応ができないでしょう。

銀行営業マンは、融資知識を自助努力で習得しなくてはなりません。そんな思いから、本書を開きました。

 

◼️貸出判断の勘所

 筆者は、融資担当者の貸出判断能力の低下に強い危機感を抱いています。定量データ・保証・担保に頼りきりで、資金使途もろくに検証できない担当者が増えています。そんな状況なのに、銀行が新人に取得される資格は、証券外務員なのです。現在の融資担当者の職務範囲は広すぎます。まずは、仕事の軸である貸出業務に専念すべきなのです。

 

◼️貸出業務の王道

 貸出は、低金利の昨今においても銀行の収益の柱です。ストックビジネスである融資業においては、健全な貸出残高を増やすことこそが、収益を支えることとなります。

 融資担当者は、融資は貸した金が返ってきてはじめて完結するという意識を持たなくてはいけません。この意識を持っていれば、必然的に資金使途の確認が重要となってきます。資金使途によって、貸出の条件は決まっていくからです。

 

◼️資金使途別借入申出検証

・経常運転資金

企業側からすれば、運営に必要となる資金は全て運転資金なので、さまざまな費用が運転資金といえる。しかし、銀行は基本的に企業の仕入れ→生産→販売→回収という商流の中で発生する資金不足を運転資金とする。商流の中での資金不足とは、いまだ資金化されていない在庫や債権を、資金負担とみなしている。

 

・経常運転資金の長期貸出

長期金利が適用でき、継続に際してのじむこすとも削減できるが、債権保全という観点からは不適切だ。経常運転資金の必要額は、企業の業績によって都度変化するため、長期の約定弁済付き貸出は資金使途とマッチしていない。長期貸出するなら、返済に対して、都度の必要運転資金までを折り返すこととなる。

 

・増加運転資金

増加運転資金の発生要因は、売り上げの増加・売買条件の変化に分類される。後者の要因の場合は、企業にとっては、好ましくない。増運発生の場合は、金額の妥当性・発生原因の精査が必要。売買条件の変化が原因ならば、条件交渉によって、資金繰りを改善出来ないかまでディスカッションすべきだ。

 

・肩代わり資金

肩代わり資金というのは、資金使途ではない。当初の資金使途を把握する必要がある。もし、資金使途が、決算資金や季節資金といった、短期返済すべき資金であるならば、肩代わりには適さない。