「消滅世界」

2018年9月10日 村田沙耶香

 

消滅世界が描く世界は、セックスではなく人工授精で子供を産むことが定着している。しかし主人公は両親が愛し合った末に生まれた子供だ。

 

この小説は、解説にもある通り、異性愛主義への懐疑をテーマにしている。

 

しかし、私にとってこの小説は、より抽象的に、人間世界での生き方をテーマにしていると思えた。

 

小説の中で主人公は、愛の末に生まれた自分の中に潜む本能と、性愛を消滅させゆく世界のと狭間で苦しむ。

 

物語のラストで、主人公は「洗脳されていない脳なんてこの世に存在しない。どうせなら、その世界に1番適したやり方発狂するのが1番幸せだ。」と言う。これは、世界への敗北宣言のようにもとれる。

 

個人は生まれたその世界の考え方を吸収してその世界の人間となっていく。しかし、世の中に絶対的に正しい考え方など存在しない。何が正常で何が狂気なのか、その境目はグラデーションになっていて、色の多い少ないしかない。